皆さんがお乗りのクルマは、ブレーキが片効きしていませんか?
片効きと言っても感覚的にわかりにくいですよね。 片効きや引きずりがあると、通常の走行ではあまり感じませんが、雨天走行時などでは停止時の車体挙動が不安定になりやすく、とっても危険なんです。 ブレーキキャリパーのオーバーホールは、あまり馴染みがありませんが、クルマと長くつきあっていく為には、必要不可欠のメンテナンスなんです。
なにしろ、どんなクルマでも気持ちよく走らせる為には"確実に停止することができる"ということが前提ですので。
ブレーキパット交換やディスクローターの交換はお馴染みのブレーキメンテナンスですが、キャリパーのオーバーホールっていったい何なんでしょうね。
写真にある物が、オーバーホール時に使用するゴム製のインナーキットです。
上段がフロント用で、下段がリア用です。
インナーキットは、大概のブレーキで定期交換をする必要があるパーツです。 アルファロメオはインナーキットの供給が無いので、キャリパーを丸ごと交換する場合が多いのですが・・・ サイズがわかっているので、車種によっては国産車用が使えます。
主にブレーキを構成する部品は、ディスクローター(円盤部分)とキャリパー(ディスクローターの右側銀色の部分)とパットです。
今回の車両はBMW E39です。左ハンドルで、エアコンクリーナーを取り外してブレーキフルードリザーブタンクを出します。
白いパーツがブレーキフルードリザーブタンクです。その奥の丸いパーツがマスターバッグです。
キャリパーオーバーホール時には、ブレーキフルードを全て抜きますので、ブレーキフルードの飛び散りを防ぐ為にあらかじめリザーブタンクからブレーキフルードを抜けるだけ抜きます。 ブレーキフルードがボディに付着すると、塗装がはがれてしまいますので、できるだけ慎重にあらかじめ抜いてしまいます。
キャリパーの分解に取りかかります。
スライドピンとスプリングをはずした状態です。 この状態になれば、キャリパーがフリーになりすぐに外れます。
はずしたブレーキキャリパー。 これは、右前のキャリパーでして、ピストンが固着してパッドがディスクローターを常時押さえつけ、タイヤが回転しにくい状態になっていました。
内部に水分が入り込んだ痕があり、ピストンの一部に錆が見えています。
とりあえずピストンを押し込みます。
ブレーキホースをはずして、キャリパーだけの状態にしてしまいます。
はずしたブレーキホースは、ブレーキフルードをきっちり抜き取り、異物が混入しないようにウエスを詰めてちょっと離れた場所で落ち着かせます。
さて、はずしたキャリパーですが、今回は少し頑固でした。
ピストンの前に副え木を置いて、
ブレーキホースの接続部分から圧縮エアーを送り込みます。
すると、スポッと音を立てて
錆がひどくて出てきませんねぇ。
CRC556をたっぷりと吹き付けて、
ピストンをキャリパーに押し戻します。
錆がひどくて、なかなか戻ってくれません。
奥に戻したところで、さらにCRC556をたっぷりと吹き付けます。 CRC556は便利ですよね。 当店ではかなりの消費量です。
今度こそ、と、圧縮エアーを送り込むと、
スポッとピストンが出てきました。 副え木は、キャリパーが勢いのついたピストンを傷つけない予防の為に挟んでいるという訳です。 ピストンが副え木に当たる音は「シュポッズバッバキッ」という感じです。
キャリパーはかなり錆びてました。
ピストンもいい具合に錆が発生してます。
元々のサイズと変わらないように錆を落とさなくてはなりません、がしかしサイズを計測しようがありません。
ピストンも表面のメッキがはがれないように、慎重に錆を落とします。
途中ですが、オーバーホールで使用するゴム製のインナーキットの輪ゴムの様な物、これが重要なんですな。 ブレーキペダルを踏むと、油圧でキャリパー内のピストンが押されて、ブレーキパットをディスクローターへ押しつける訳ですが、ブレーキペダルから足を離した時に当然ブレーキの作用は解放されます。押されたままのピストンが、どうやって戻るか。 秘密はこの輪ゴムみたいなやつにあります。理屈を説明すると混乱しますので簡単に言いますと、ねじれたゴムが元に戻ろうとする力を利用しているのです。 この輪ゴム状がピストンと密着していて、油圧で押されたピストンを輪ゴム状が必死に戻そうと反発しているんです。
わかりにくい説明を置いておいて、単純なパーツですがとても重要と言うことです。 下のゴムはダストブーツで、こいつがしっかりと働いていれば、ピストンを錆から護る役割をきちんとできる訳です。 所詮ゴムですので、経年劣化は避けられませんね。 まあパンツのゴムが伸びるよりは長持ちしますが。
ここでオーバーホールの話に戻ります。 丁寧に汚れを落としたピストンですが、まだこのままでは終わりません。
キャリパーも、錆はある程度は落ちていますが、このまま終わりではありません。
洗剤で油分を落とします。
キャリパーもピストンも、洗浄します。
錆を落としてサイズが変わってしまうことを防ぐ為に、しかし錆をある程度は落とさずしてオーバーホールと言えるかと。 その為に、ラストリムーバーで丁寧に錆を落としていきます。
キャリパーもラストリムーバーで錆を落とします。
ピストンを、優しくブラッシング。
キャリパーも優しくブラッシング。
ラストリムーバーを洗い流してます。
圧縮エアーで水分を除去。
さらに細かい汚れと錆を手作業で除去。
輪ゴム状のやつに、ラバーグリースを塗り込んで、
キャリパーに納めます。
ピストンにブーツをはかせます。
そして丁寧にラバーグリースを塗ります。
ピストンをキャリパーに納めます。
ブーツがきちんと溝にはまるように丁寧に。
スポッと入れます。
この後は、パットを取り付けてキャリパーを車体に取付。残るブレーキも手早くとっとと片づけます。 全て完了したら、ブレーキフルードをリザーバーに入れ、エア抜きを。 そしてタイヤを取り付けて完了。
走行距離が10万㎞を超えたあたりや、車齢10年を超えたら、やっておいた方がいいかもです。